大判例

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東京高等裁判所 平成11年(う)326号 判決

1 関係証拠によると,本件発生のいきさつとして,およそ次のような事実が認められる。

(1) 被告人は,離婚して引き取ったXを連れて,群馬県太田市内のキャバレー店の寮に住み込み,ホステスとして働いていたところ,平成9年7月ころ解雇されたため,住む場所がなくなり,同月20日ころから,同僚のA子(当時29歳)を頼って,同女が夫のB(当時30歳),前夫との子であるC(当時8歳),長男D(2歳)と居住する足利市内の3DKのマンションに,一時,Xと共に居候することにした。

(2) そして,被告人は,Xについて支給された福祉手当から,1か月分の居候の礼金として10万円をA子夫婦に渡して,A子方で家事や子守りをして過ごし,A子は,昼過ぎに起床して午後4時過ぎにキャバレーのホステスとして出勤し,深夜まで働いて帰宅し,Bは,A子が仕事に出ている間,子守りやパチンコで時間をつぶす生活をしていたが,間もなく,被告人は,Bから誘われるまま,A子の不在の間に,度々性交渉を持つようになった。そのうち,CとXがじゃれて悪戯が目立つようになり,A子夫婦と被告人は,度々体罰を加えていたが,同年8月上旬ころから,Cが,Xの悪戯を両親に告げ口するようになり,Xが否定した場合にも,A子夫婦は,事実を確かめないまま,激しくXを折檻するようになった。しかし,被告人は,A子夫婦に負い目があり,また,日頃,男親のいないXを厳しく躾てほしいと頼んでいたことから,Xの言い分に分があると察した場合でも,A子夫婦の折檻を傍観し,あるいは,自らも折檻し,9月中旬ころからは,交々,Xの手足を布製のロープで縛り上げ,煙草の火を押しつけ,テニスのラケットで殴打し,熱い溶けたろうそくを首筋の皮膚に垂らすなど,折檻の度合いも酷くなったが,被告人は,Xの不自然な負傷に気付いた近所の人やかつてのホステス仲間から注意されても,態度を改めようとはしなかった。

(3) 同月20日午前,A子は,CからXの悪戯を告げ口されると,前夜来ロープで両手両足を縛られたままであったXの顔を平手で4,5回殴打するとともに,腹部付近を2,3回蹴りつけて,正座していたXを頭部から後方に転倒させ,午後1時ころには,Bが,Xの足から腰付近を1,2回蹴りつけて床上に横倒しさせた。さらに,A子が,チューブ入りの練りわさびをXの口の中に突っ込み,午後1時過ぎには,4,5回頬を平手打ちし,足で脇腹を蹴り飛ばして,頭から横倒しにし,持ち上げて,腰投げするように,床上のカーペットに投げ出して頭から落下させ,その後,同様に2回投げつけた。午後5時ころ,Bは,Xの腰を10回ほど蹴りつけ,手拳で頭頂部を3,4回殴りつけ,午後9時ころ,更に,3階のベランダから投げ落とそうとしたが,被告人に制止されて思い止まったものの,包丁を持ち出してXのズボンを裂くなどして脅した上,Xの全身に布団を巻き付け,その上からロープで縛って,簀巻きの状態にした。

(4) 被告人は,翌21日午前0時ころ,Xの簀巻きの布団を外して,手足をロープで縛っただけの状態に戻したが,その際,「お母さん,もう,ここ出て行こう」というXの訴えに耳をかさなかった。午前0時半ころ,帰宅したA子は,Cの告げ口を伝え聞くと,縛られたまま横臥していたXの腹部を踏みつけ,被告人も踏みつけた。午後1時ころ,A子は,縛られたままのXを正座させ,激しく叱責して,頬を4,5回平手打ちし,3回腹部を足蹴りして床上に転倒させ,さらに,右手でXの襟元を,左手で肩口をそれぞれ掴んで持ち上げて,投げつけ,頭から床の上に投げ飛ばした。その後,被告人は,Xの横腹を2回ほど蹴り,頭から横倒しにして床上に転倒させ,A子夫婦は,Xを布団で簀巻きにした。午後4時半ころ,A子は仕事に出たが,Bは,午後7時30分ころ,簀巻き状態の布団から出ているXの頭部を拳骨で3,4回殴打した。午後8時30分ころ,被告人は,Xの様子を見にいくと,Xが,「僕なんか出ていけばいいんでしょう」と言ったのをたしなめ,その頭部付近を2回平手打ちした。午後8時50分ころには,Bが,簀巻きにされて横臥しているXの腹部の上に両足で立ち,2回ほど飛び跳ねるようにしたところ,Xが「ギャー」と悲鳴をあげたので,布団を外して様子を見ると,目を見開いたまま,体を動かさず,意識もない様子で,呼びかけても反応しなかった。

(5) 被告人とBは,同日午後9時過ぎころ,救急車を呼んで,Xを足利赤十字病院に運んだが,すでに重篤な状態で,頭部打撲による硬脳膜下出血に伴う気管支肺炎により,10日後の同年10月1日午後5時ころ死亡した。

2 所論は,被告人は,Xの頭部に,死因に直接結びついた硬膜下血腫の傷害を生じさせるような暴行を加えてはいないと主張するのであるが,前項に認定した本件の経緯に照らすと,平成9年9月20日から翌21日にかけて,A子夫婦と被告人は,それぞれ,Xに対して激しい暴行を加えたのであり,被告人は,21日には,①午後1時過ぎに,縛られたまま座らされていたXの横腹を2回ほど足蹴りして床に頭部から横倒しに転倒させ,②午後8時半ころにも,Xの頭部付近を2回平手打ちしたことが認められる。本件において,被告人は,A子夫婦と意思を相通じて暴行を加えたとまでは認められないにしても,前日までの度重なる激しい折檻で,Xが相当に衰弱した状態にあることを十分認識し,また,21日当日にも,A子夫婦が,前示のとおり,手足をロープで縛られていて,身をかばうこともできないXの頭部や腹部に強烈な暴行を加えて,更に衰弱が進んでいることを現認しながら,あえて自らも右①,②等の暴行に及んだものである。このような被告人の暴行内容を見ると,その暴行はXの死因となった傷害との間に因果関係がないとはいえないことは明らかである。

したがって,被告人とA子夫婦が,それぞれXに暴行を加えて急性硬膜下血腫等の傷害を負わせて死亡させたが,いずれの暴行により致死原因である右硬膜下血腫を生じたのか知ることができない旨認定した原判決に,事実の誤認はない。

そして,暴行ないし傷害の結果的加重犯である傷害致死罪についても,刑法207条の規定が適用されると解すべきであり,これを適用から除外すべき特段のいわれはないから,同条の適用を認めて,被告人を傷害致死罪で処断した原判決に法令適用の誤はない。

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